群衆の知恵

Web2.0予測市場の裏にある考え方を解説した本が、ジェームズ・スロウィッキー氏の「「みんなの意見」は案外正しい(原題:The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business, Economies, Societies and Nations)」です。

「みんなの意見」は案外正しい

「みんなの意見」は案外正しい

この本の中では、原書の副題にあるように、

  • 群衆の判断は優れた個人の判断より優れている場合がよく見られる
  • どのような場合に群衆が知恵が適切に機能しているのか

を事例をもとに書かれています。どのような場合にうまくいっているかを、成功事例、失敗事例を交えて書かれていますので、集団の知恵の方が「常に」正しいと主張している本だと思うと逆に混乱するでしょうね。群衆の知恵が適切ではなかった典型といえるバブルなんかを常に頭の片隅に置きながら読むといいかも。この本の原題は、著者によるとバブルの記録である「狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか (ウィザードブックシリーズ)(原題:Extraordinary Popular Delusions and the Madness of Crowds)」へのオマージュだったんですね。

狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか (ウィザードブックシリーズ)

狂気とバブル―なぜ人は集団になると愚行に走るのか (ウィザードブックシリーズ)

  • 作者: チャールズ・マッケイ,塩野未佳,宮口尚子
  • 出版社/メーカー: パンローリング
  • 発売日: 2014/06/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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行動経済学に関心を持ったときに私も読みましたが、ちょっと癖のある本です(苦笑)。
ではどのようなときに群衆の知恵が優れた物になるかというのが本書第1部のテーマで、要約すると第1章の最後にあるように

確度の高い予想をする鍵は、一つの方法の完成度を高めることではなく、集団が賢明な判断を下すのに必要な多様性、独立性、分散性という要件を満たすことにある。

となります。この要件はそれぞれ、

  • 意見の多様性(第2章:違いから生まれる違い − 8の字ダンス、ピッグズ湾事件、多様性)
  • 判断の独立性(第3章:ひと真似は近道 − 模倣、情報の流れ、独立性)
  • 意志決定の分散性(第4章:ばらばらのカケラを一つに集める − CIA、リナックス、分散性)

ということで、そのような要件を満たした上で

  • 意見の適切な集約(第5章:シャル・ウィ・ダンス? − 複雑な世の中でコーディネーションをする)

が重要であると述べています。
群衆の知恵が機能するとして、各種の組織の現状からどうすればいいかを考えさせられるのが本書第2部ですが、現実を見たときに群衆の知恵が機能するのがいかに難しいかを逆に痛感させられてしまいます。同質のひとを採用しがちなので意見の多様性が失われたり、他人の意見や動向に引きずられて集団として極端に走ってしまったり、会議を開いても結論は暗黙のうちに決まっているので異論を挟めなかったり。本書の原題でまとまり感のある「Community」(または「Organization」)ではなく、あえてばらばら感の強い「Crowds」としたのも何となく分かるような。本当にばらばらなら機能しないのは第5章でも述べられているので、その絶妙のバランスが難しいところ。
その群衆の知恵についてですが、「5月21日、群衆の叡智サミット2008 - (WOCS2008Spring)開催」されるそうな。日本におけるWeb2.0の成功例の代表格であるはてなCTOの伊藤直也氏や、予測市場で有名な駒澤大学准教授の山口浩氏もパネラーですね。CNETで「テックスタイル、公開討論会「群衆の叡智 サミット 2008 Spring」を開催」でていたの気づかなくて、山口氏のエントリーで気づきました(汗)。去年も開催されていて、タイトルにSpringとつけたあたり好評だったからから年2回開催にするのかな。