良くある悲劇の物語かな・・・

未読のまま埋もれていた「生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)」が発掘されたので、毀誉褒貶の激しい本書を読んでみました。自分と異なる意見の持ち主の本を批判的に読むのも面白いですからね。タイトルだけで見ると「生命とは何か」を突き詰めた科学エッセーのように思えますが、実際には分子生物学者の挫折体験に基づいたエッセーかな。そう考えると、分子生物学に関する黒歴史みたいなものが冒頭に続くのも理解できます。
有望な仮説に夢膨らませて、ノックアウトマウスまで作って検証してみたら、正常なマウスとなんの機能的な違いが無くて虚脱感に襲われてしまったのかな。その反動で生命に関する考え方を大きく転向させてしまったというところでしょうか。存在は知られていても細胞内でどんな役割をしているか分からないタンパク質まだいろいろありますからね。科学ではよくある悲劇なので、同情の念を禁じ得ないところもあるのですが。研究成果が上がるかどうかの半分以上はテーマ選定できまると私も言われたことありますし。
本書で「動的平衡」とされているのは、一般システム理論における「定常状態」と同じで、特に新規な説ではないです。一般システム理論と同じく、機械論とされているものを否定し、有機体論とされているものを持ち上げているのですが、何が問題なのか私には理解不能でした。メタファーがかえって混乱を招いているようにしか思えません。最近有機体論的主張が脚光浴びているところもあるのは、ヒトゲノム計画への楽観的すぎる期待が外れてしまったことも影響しているのかな。私なんかは遺伝子がすべて解読できれば、生命機能が解明できるというのは楽観的すぎと批判的な目で見ていましたが、逆に遺伝子の役割を過小評価する風潮は行き過ぎた反動だと思います。方向がふれすぎ。
でも、このタイトル見て「生物と無生物の間 ウイルスの話 (岩波新書 青版 245)」を思い出した人も少なくないはず。昔私もよんだような記憶が。比べてみると、本書はやっぱり「生命とは何か」について語った本とはいえません。生命についてのエッセーとして出版したというのなら、批判を受けても仕方ないと思います。