数字を使う、数字に使われない

前回「リスクマネジメントは・・・」を書いてから、情報システムの評価について振り返りつつエントリーを纏めてみようかと思っていたのですが、ちょっと延び延びになってしまいました。エントリーを書くに当たって、情報システムを含めたビジネスを評価するとは何かを自分の中で明確にしたくて読んだ本が、話題になった次の2冊、「食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉 (光文社新書)」と「「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 禁じられた数字〈下〉 (光文社新書)」です。

食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉 (光文社新書)

食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉 (光文社新書)

科学において理論を明確に表現する言語が数学であるとすれば、ビジネスを明確に表現する言語が会計であるといえます。数字を使わずに言葉だけで表現するというのもうまく使えば有効ではありますが、人によって言葉の解釈に違いが生じてコミュニケーションの障害となるケースも多々あります。そこで明確な規則と数字でコミュニケーションを図ろうというのは近代以降一般的に使われる手法ですね。そして会計もその手法の一つであるといえます。
著者は会計の数字を

  • 順序がある
  • 単位で意味を固定する
  • 価値を表現できる
  • 変化しない

と定義しています。まあ、会計処理方法を複数の基準の中から選択できたり、時代に合わせて規則も変更されていますから、厳密に考えれば必ずしも成り立つルールではありませんが、何を準拠にしているかは明記しなければいけませんので、基本的にこのルールの元に会計の数字は成り立っていると考えていいでしょう。
そして数字を

  • 使うべき数字
  • 禁じられた数字

の2種類に分けて話をすすめています。ここでいう「使うべき数字」というのは会計の数字を有効に使って人間が犯しやすい誤謬をさけるという話で、上巻である「食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉 (光文社新書)」のテーマになっています。そして、「禁じられた数字」とは、適切に使えば有効であるはずの数字に振り回されることによって、ビジネス的な観点から見て不適切な行動をとるインセンティブが生まれてしまうと言うことで、下巻である「「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 禁じられた数字〈下〉 (光文社新書)」のテーマになっています。そして、上下両巻とも副題に「禁じられた数字」が入っているように、メインのテーマは「数字を使って数字に使われない」事にあると解釈しました。
特に共感を覚えたのは下巻ですね。「第2章 天才CFOよりグラビアアイドルに学べ−計画信仰」での話は、計画に縛られるあまり不適切な会計操作を行うCFOの話ですが、事業計画を定めて進めることと、事業環境の変化に対応することをどう調和させていくか、本当に難しいですね。そして、脱予算経営としてソフトウェア開発におけるアジャイルのような考え方で経営している例も紹介されています。
「第3章 「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 効率化の失敗」では、費用対効果で判断するときの盲点を指摘しています。会計の世界でもABC(Active-Based Costing)のように、どのように原価を割り当ているかという問題が有ります。情報システムの世界でも、TCO(Total cost of Owership)問題のようにどこまでを情報システムの費用として考えるかという問題がありました。それでも基本的には費用は比較的把握しやすい項目です。それに対して何を持って効果とするかは簡単ではありません。本書でも「目先の利益」か「長期的な利益」かという問題もありますし、インフラのような公共財では、そもそも効果算定自体が困難を極めます。情報システムでもTCOでコストが話題になったときに、効果も考えるべきという方向に進みました。業務システムとかは比較的効果ははっきりしやすいですけど、普段使っているPCなんかの方がインフラとしての性格を持つだけに効果を算定しにくかったりします。
「第4章 ビジネスは二者択一ではない 妙手を打て」では、トレードオフが存在すると思われている目標でも、考え方を変えれば両立させる事ができるという話です。これは最近話題の「社会起業家」にもつながっている議論ですね。
会計というのは陰鬱なものと捉えている人が多いかもしれませんが、見方を変えればずいぶんと明るいものですね。