こっちの方が行動経済学と付けた方が

Neuroeconomics(神経経済学)というネーミングからちょっと怪しげな先入観を持ってしまっていて、今頃になって「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」を読んでみました。

誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか

誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか

著者は臨床の精神科医でもあるので、副題にあるような「人はなぜ自滅的行動をするのか」に日々直面しているわけで、それを行動心理学とゲーム理論の理論と実験結果を用いて分析した結果を纏めています。ただ、将来の効用を現時点に割り引く関数として、通常の指数割引の替わりに双曲線割引を使うことで、個々人としては非合理的な行動をとるのかということをオーソドックスに展開しています。実証研究では、個人は双曲線割引で効用を評価していると見た方が良いという結果が得られているそうです。そして、短期的な小さな効用と、長期的な大きな効用をある時点で割り引いて評価すると、指数割引ではつねに長期的な効用が短期的な効用を上回ります。それに対して、双曲線割引では短期的な効用が実現する直前では、長期的な大きな効用よりも、短期的な小さな効用の方が割り引き後の効用が大きくなるので、誘惑に負けて非合理的に見える行動をとるという仮説を立てています。それでも、個人が合理的に振る舞おうとするのは、複数時点で実現される双曲線割引曲線を束ねると、指数割引曲線に近似できるとか、双曲線割引をする人と指数割引する人で取引すると双曲線割引側が不利になるので、指数割引的な合理的行動をとろうとするインセンティブが働くとか。
神経経済学は、行動主義心理学ゲーム理論が中心になっているようなので、認知心理学がベースになっている行動経済学と比べると、ミクロ経済学とうまくつながりそう。というか、ベースとなる心理学との関係性で言えば、神経経済学を行動経済学といって、行動経済学を認知経済学と言ってくれた方が分野横断的に見たときに混乱しないんですが。「行動経済学 経済は「感情」で動いている (光文社新書)」の中でも神経経済学について行動経済学の新しい領域的な扱いで紹介していますが、行動心理学と、認知心理学での心理というもののとらえ方の違いを考えると、別なアプローチとして扱った方が良さそうです。行動経済学者のなかでも、神経経済学に関心を持つ研究者が多いとのことですが、行動経済学創始者であるセイラーとラビンが神経経済学と距離を置いているというのも、心理学上の違いが関係しているかもしれません。勝手な推測ですが。