摩擦ゼロの資本主義

かつてインターネットが経済活動の中に急速に普及して行く段階で、ビル・ゲイツ氏が「ビル・ゲイツ未来を語る」の中で唱えた摩擦ゼロの資本主義というものを唱えました。

ビル・ゲイツ未来を語る

ビル・ゲイツ未来を語る

私もそのことばを初めて聞いたとき、情報の流れが高速で密になることで、ビジネスが今までと比べて格段に効率化できるとポジティブに捉えていました。そして摩擦ゼロの資本主義がどうなるか自分なりに考えてみたときに、ふと思ったことがあります。それは工学的に考えたときにそれって経済が今まで以上に不安定化するのではという危惧です。
よく使われる例えとして自動車のハンドルがあります。クルマのハンドル、ちょっとだけ動かしただけではタイヤが方向を変えないように遊びが有りますよね。ドライバーが自分が行きたい方向にきちっと固定できれば良いのですが、F1ドライバーのようなプロならともかく、普通のドライバーにはそんな真似は不可能です。もし遊びが無ければ、ドライバーのちょっと下手の動きがタイヤにダイレクトにつながって、自動車はつねに蛇行することになります。野原で自分一人で運転している分にはそれでも良いかもしれませんが、交通量の多い道路では衝突事故多発してしまいますよね。そのような危険を避けるために、機械にはあそびを持たせるのが常識となっています。ネットワークによって密に結びつけられた経済システムにおいて摩擦ゼロなんかにしたら、クラッシュ多発になるのではと。まあ、普通のビジネスはCMの中でならともかく、現実には摩擦ゼロにはできませんから、新潟での地震の時のように災害時にその問題が露呈するぐらいでやってこれたと思います。
さて今回の金融危機です。日本GPの直後ということもあってF1ドライバーのことふれましたが、F1カーはプロが操ることが前提ということで、ドライバーが細かなコントロールが出来るようにあそびが小さく設計されていると聞いたことがあります。それでも、ときどきクラッシュ事故が起きますよね。悲惨な事故が起きるたびにドライバーの安全性を向上させるためのレギュレーション変更もなされているようですが。そして、今回メルトダウン寸前までいった金融システムも、あそびが少ない高性能マシンを操って狭いコースで競っていたら大クラッシュ発生というところでしょうか。
F1ではこのような大事故が起きるたびにレギュレーションが変更されてきましたが、さて今後の金融システムはどうするのでしょう。危険だからレース事態を廃止する?レギュレーションを変更して再開?さすがに、業界内だけで処理しきれなかった分、世間の目も厳しくなるでしょう。どれで見たのか忘れてしまいましたが、米国と日本でゲーム理論の実験を行ったときに、米国ではやられたらやり返すけどあっさり許すしっぺ返し戦略をとる人が多くて、日本ではやれたことはなかなか忘れない恨み屋戦略をとる人が多いそうです。それがバブル崩壊後の行動の違いにつながっているような気もするのですが。米国の場合はしばらくすればまた同じようなことを再開する可能性も高そうですね。