エンジニア?医者?

最近の経済情勢からマクロ経済論戦が盛んになっているようですが、素人からは不毛としか思えない論戦も見られます。Mankiw教授のエッセーで「科学者とエンジニアとしてのマクロ経済学者」というものがありますが、マクロ経済学に対する期待を思うと、実践として工学を目指すのではなく、医学を目指していた方が、より実りあるものになっていたのではないかと私には思えます。
医学は主に病気に関する学問ですが、生体の基本的な理解が必要になりますので、病気として現れる異常な生命現象を研究する病理学だけでなく、生命現象の機能を研究する生理学も重要な研究対象となります。経済学で見ると、新古典派は生理学と、ケインズ派は病理学と同じ学問的志向を持っているように私なんかには見えます。ここで、経済論戦で語られていることを、医学に置き換えて考えてみましょう。
生体を生理学的に調べると、内部要因または外部要因による環境変動に対して一定な状態に保とうとする恒常性が見て取れます。また、体温などのように周期的な変動も見て取れます。この辺り、マクロ経済学における景気変動と似ていますね。さてここで医学者が大怪我で出血が止まらない患者を前にして、「生理学的にみて生体には恒常性があるから、自然治癒力に任せて余計な処置は一切するな」という発言をしたとしたら、あなたはどのように感じるでしょうか。何を馬鹿なことを言っている、さっさと処置してくれと怒り出すのではないでしょうか。経済がどんな状況であっても政府が介入しない方がよいという極論は、私には同じように思えます。でも、それも患者(=経済)の状況によるのではないでしょうか?さらに、生理学者が「病気になっても自然治癒力に任せるのが一番、だから病理学や薬理学は不要である」と主張したら、あやしげな健康法にはまったのかと思われるのが落ちでしょう。
逆に過剰に医療処置を行うの問題になります。プラシーボ効果で分かるように、生体の持つ自然治癒力は馬鹿に出来ません。抗生物質が不要な患者に対しても投与してしまうことによって耐性菌が増殖するという問題が発生しました。また、過剰医療によって医療費が増大してしまい、負担しきれなくなってきたという問題も発生しました。これを経済に置き換えてみた場合、過剰な政府介入はかえって有害であるという話にも一理あります。医療費削減に関しては、行き過ぎで医療崩壊が現在問題になっていますけど。先ほどとは逆に、「医学なんだから病気に関する研究が重要である。だから生理学の研究なんて意味はない。」とか発言する人がいれば、医学の基本を理解しているか不安に感じます。怪しい代替療法を提唱しているのではないかと(苦笑)。
現在のような経済状況こそマクロ経済学の真価が問われていると思うのですが、経済学者さんたちは期待に応えてくれるのでしょうか?