ソロモンの指輪

最近ドーキンス博士の本を読んだり、人の行動に影響を与える遺伝子が分かってきたという記事を見たりした影響なんですが、動物行動学を確立したコンラート・ローレンツ博士の「ソロモンの指環―動物行動学入門」を読んでみました。

ソロモンの指環―動物行動学入門

ソロモンの指環―動物行動学入門

攻撃―悪の自然誌」の方は昔読みましたが、代表作とも言って良い「ソロモンの指環―動物行動学入門」の方は読んでいなかったんですよね。先入観を排除して動物の行動を観察する研究スタイルを確立したという点で、偉大な功績を残しましたね。行動を厳密に観察するのは、普通になった現在では特段すごいことには思えないかもしれませんが、当時の動物学の状況を考えると画期的なことだと思います。その理論の中には、種淘汰理論など、後に発展した社会生物学において否定されたものもありますが、その業績を何らおとしめるものはないと思います。
心理学でも行動主義では動物の行動を対象にしていて、人間ではなく動物を対象にすることに対して疑念を呈されたりするわけですが、本書の中で述べられてもいる次のような考え方が回答になるかと:

こんな表現をしても、私はけっして擬人化しているわけではない。いわゆるあまりに人間的なものは、ほとんどつねに、前人間的なものであり、したがってわれわれにも高等動物にも共通に存在するものだ、ということを理解してもらいたい。心配は無用、私は人間の性質をそのまま動物に投影しているわけではない。むしろ私は逆に、どれほど多くの動物的な遺産が人間の中に残っているかをしめしているにすぎないのだ。

動物の行動を理解することによって、人間の行動の基底にある本性というものの理解も進むのではないかと思っています。
まあ、研究スタイルとしては厳密な手法をとるローレンツ博士ですが、文章の隅々から動物に対する愛情みたいなものを感じ取れて、ちょっとほのぼのした感じを抱きました。