安心社会のビジネス

前のエントリーで触れたソーシャルビジネスの姿を考えていたら、山岸俊男氏が「安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)」の中で定義した安心社会を基盤としたビジネスではないかと。

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)

グラミン銀行のビジネスを立ち上げたバングラディシュの農村社会はまさに「安心社会」にあたると思います。そして、グラミン銀行の融資システムを見ると、まさにその安心社会を基盤にしているように見えます。

融資システム
グラミン銀行では、貧困層向けに事業資金を融資し、生活の質の向上を促す活動を行っている。バングラデシュにおいては「16の決意」と呼ばれる価値観を広めている。女性を中心にして500万人以上に貸し付けを実施。顧客に対し担保を求めない代わりに、顧客5人による互助グループがつくられる。これは、それぞれが他の4人の返済を助ける義務があるが、連帯責任や連帯保証ではなく、他のメンバーに本人に代わっての支払いの義務は生じない仕組みである。このようなシステムによる貸付金の返済率は98.9%と、通常の銀行と比べても遜色のないレベルを保っている。得られた利益の全額が災害時のための基金にまわされる。
いきなり構造改革で信頼社会への転換を図っても、バングラディシュの貧困層の社会環境では実現不可能でしょうし、無理に強行すれば、安心も信頼も無い混沌とした社会に陥る恐れもあります。それなら、安心社会の社会基盤をベースに状況の改善を図るのは現実的なアプローチであるといえると思います。ある程度経済成長が進めば安心社会から信頼社会への転換が必要にされるんでしょうけど、それは安定した社会ができてからの課題で、今現在の課題ではないと言うところでしょうか。
安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)」が書かれた90年代末の頃は、安心社会から信頼社会へと向かわざるをえないという感じでしたが、最近その流れを逆転しようとする動きが目立ちます。安心は失われ、信頼はまだ築き上げられていない状況の中で、信頼社会への取り組みは次第に放棄され、かつての安心社会へ戻ろうとする動きが高まっている感じです。ただ、すでに鎖国状態では生きていけなくなってしまった日本では、今更逆戻りはできないはずなのですが。