まぐれって疑似相関のことかな?

データの科学」のエントリー、実は少し前に書こうと思いつつそのまま放置してあったんですけど、何故改めて書いてみたかというと積ん読状態でちょっと放置していた「まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか」を改めて読んでみたからです。

運と実力の混同とか、反証主義による批判とかは極論過ぎる感じがして、初め読んだときは違和感の方が大きかったんですが、著者は「Dynamic Hedging: Managing Vanilla and Exotic Options (Wiley Finance)」を書いた統計的裁定の人だと分かって、著者の言いたいことがやっと納得。統計的裁定は、経済学で言う裁定とは異なって、実際にはオプション売りと同じようなリスクを抱えた投機です。著者はロシアンルーレットにたとえていますが、まさにその通りですね。そして統計的裁定が破綻するのは、tailな事象が現実になったときなので、運とかfat tailな事に関しては深刻に受け止めることになります。それをちょっとセンセーショナルに書いたのがこの本であると受け取りました。
統計的裁定は、平均回帰現象を利用して市場リスクをヘッジする分、高いレバレッジをかけて普通は着実に儲けていきますが、たまに正規分布を仮定するとまず起こりえない例外的事象が発生して破綻することがあります。有名どころではLTCMの破綻ですが、去年の8月にも割安の株はさらに売られ、割高の株がさらに買われるという、発生する確率が6σ以上の状況が実際に起きたらしくて、結構多くのファンドが破綻したようです。そのような不運は、得てして自分の実力を過信したときにやってきますので、気をつけろよということをちょっとくどく感じるくらいに書いています。無限の与信が得られるわけでもなく、流動性が枯渇する状況下でリスクマネジメントを考えると、tailこそが問題になるのは確かに。まあ、原文見てないので先入観が有るかもしれませんが、いかにもトレーダーという文体に反感覚える人もいるかも(苦笑)。
結局のところ、実力とされていることの多くは統計的には疑似相関にすぎないのではというのが、著者のいうまぐれということなのかな。統計という集団の観点からではなく、個人の観点から立場で解釈して、確率と認知バイアス(特に帰属バイアスかな)の問題を指摘したのが本書の、まぐれなんでしょう。wikipedia:誤謬を見ると結構面白いですよ。
林知己夫氏は統計学者の立場から因果関係について懐疑的な見解に到達しましたが、著者の場合はより実務よりのビジネスを通して、因果について懐疑的な見解に到達したという点で、とても興味を覚えました。